そう、ひとり
「両親は?お母さんはいないの?」
いない。そんなのずっと
「そう。それじゃあ、私と来る?一緒に」
一緒に?・・・行きたい。雪が冷たくない所へ
「名前は?」
ルゥ
「そう。素敵な名前ね。これからよろしくね、ルゥ」
「ルゥの目は綺麗ね。左が蒼で右が碧。とても素敵な色だわ」
その人は顔を覗き込んだ。
「本当に?気持ち悪くない?」
「ううん、全然。羨ましいぐらい」
嬉しかった。初めて誰かに認めてもらえたような気がした。
「あっ、見て。雪よ。貴方の髪と同じ色してるわね」
と、空を見上げて微笑んでいた。
確かに空から雪が綺麗に舞い降りてきていた。
なぜか雪に触れても冷たくなかった。ついこの前まで冷たくて、寂しくて、残酷なものの塊だと思っていたのに。
ずっと続くと思ってた。
この人とずっと一緒にいて、毎年、この雪を―――
目の前には真っ赤な雪が積もっていた。その中で人間・・・でなくなっていく人がいた。
「ずっと貴方と一緒にいたかった・・・」
どうして?一緒にいてよ
「ルゥ・・・。生きて」
最後にいつもと変わらない微笑を見せた。
死ぬって何?嬉しいの?だから笑っているの?
この目に溢れてくるものは何?涙?涙ってどんなときに流れるものなの?
教えてくれた人はもういない。
「お前は生かそう」
男は言った。地面に着きそうなほど大きな右腕、きっとあれは悪魔の腕・・・をこちらを向けた。
「なら、俺はお前を殺しに行く」
「それは楽しみだ。だが、俺は忘れっぽい。だから、お前という証を残そう」
男が積もった雪を踏みしめてこちらへ近づいてくる。そいつを憎しみを込めた眼差しで見つめた。
男の右腕が伸びてきて、爪先で左眼の下に3本の小さな傷をつけた。温かい血が伝ってくる。
「これがお前という証だ。俺を殺しに来い」
男が不愉快な笑みを浮かべる。
「そうだ。いい事を教えてやろう。この世界には“インフィニティ”という何でも望みを叶えてくれるものがある。対価が必要で、死んだ者は生き返らせてはくれないが」
男がまともな左腕を掲げるとそこには光り輝く珠があった。
「これをお前にやろう。望みならあるだろう?」
男は背を向けて、深々と降る雪の中を歩いて行った。
望み?望みならある。
自分のことなんて知らなくていい。ただ、望みがある。
“力”。あいつを倒せるほどの力が。
最後の腕の中ですっかり冷たくなって人でなくなってしまったのを見る。
温かい涙が頬を伝う。すぐに冷たくなってその人の顔に落ちた。
その日の雪はとても冷たかった。
これから先、雪が温かくなる日なんてない―――ー
- continue -
10.01/31