Infinity


act.01 出逢い

「ねぇ、キール。こいつはもう捕まえたんだっけ?」
「うん。結構前だよ、ティナ」
 ギルドの窓側の席のテーブル一面に手配書のリストを広げている2人組みがいた。
 ギルドとは、指名手配された自分物や、魔物を倒してそのかけられた賞金の取引などが行われる場所だ。たまに人間からの依頼がきたりもする。
「うーん、どうも私は人の顔覚えるのが苦手なのよね」
 赤毛で紅い目をした女が腕を組んで背もたれに背を預ける。
「まぁ、知ってるけど。それで次はどいつにする?」
 キールと呼ばれていた青髪で蒼目をした男が手配書リストを一枚手に取る。
 2人は、ギルドの中でも優秀なハンターとして名高かった。
「どうしよっか。・・・あいつ、新しいハンター?」
 ティナが少し鋭い目つきで、壁に貼られた手配書を見ている旅人用マントで身を包み、フードを目深にかぶっている人物を見る。
 ギルドは地方に点々とあり、いろんなハンターがどこのギルドを利用していても構わないので見たことのない自分つがいてもおかしくないのだが、なぜがその人が気になったのだ。
「かな。あれ、Sランクの手配書だね」
 キールは微笑しながら興味深げにティナの目線の先の人物を見つめる。
「よし、あいつに絡んでこよう。他のギルドから来たんなら何か新しい情報も手に入るかもしれないし」
 ティナが手配書も広げたまま席を立つ。キールは慌てて適当にリストを集めてゴミ箱に突っ込んだ。
 その人物は、一枚の手配書を長い間見つめていた。ティナは、その人物が動き出したら声をかけようと思っていたのだが、中々動いてくれないので自分から声をかけた。
「中々お目が高いわね」
 極自然に話しかけたつもりだが、その人物は大げさとも言えるほど過剰に反応して壁に背を向けてすぐこちらを振り返った。
「あーごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだけど。私、ハンターのティナ。そしてこいつが相棒のキール。よろしく。あなた、新しいハンター?この辺では見かけないけど」
「―――ハンターとは何だ」
 声からして男だろう。その声の予想外の答えにティナはキールと目を見合わせる。
「ええっと、ハンターって言うのは、この手配書とかに書かれてる人物とか魔物を倒してそのかけられた賞金で稼いでる人達のことよ。私達もそう」
「・・・それなら関係ない。俺は一人の人物を探している」
 男はあまり見えない顔を伏せた。
「それがこいつってわけだ」
 キールが男の後ろの壁に張られている手配書を目で指す。
「こいつ・・・『死の右腕』じゃない!なんでこんな奴を!?」
 ティナが少し荒げた声を出す。
「色々あって。ずっとこいつを探しているが、見つからないんだ」
「大変だなーこんな奴探してるなんて。死の右腕は姿を見た人でさえ数少ない。だからこそこんなすごい懸賞金」
 0の数が見た事ないような数になっていた。
「―――よし!こいつを探すの手伝ってあげる!だからそいつの賞金半分頂戴!」
 ティナはひらめいたように手を打って、男に持ちかける。この賞金の半分もあれば街3つほど変える額だった。
「ティナ、いきなりそれは・・・」
「俺は構わない。探してくれるのを手伝ってくれるのなら」
「よし!交渉成立!あ、まずは貴方の名前を教えてくれるかしら」
 ティナが話の原点となりうることを今更持ち出してきた。
 男はしばらく黙っていたが目深にかぶったフードを後ろに払って顔を見せた。
「ルゥ。よろしく頼む」
 銀色に近い髪。後ろ髪が細い束で結ばれている。不思議なことに右目が漆黒で左眼がキールよりも澄んだ蒼色をしていた。左眼の下に3本の小さな引っかき傷のような痕がった。それでも綺麗な顔立ちでおそらくティナたちと同じ年くらい。
 ティナが握手を交わすと、ルゥの手は異常に冷たく感じられた。
「それじゃ、さっそく行きましょうか」
 ティナが先にギルドを出た。もうここには死の右腕の情報はないと悟ったからだ。
 こんな小さなギルドにはSランクはおろか、Aランクの情報すらない。手配書が支給されているだけで情報を扱えるほど出来たハンターもいない。
「まずは、大型都市に行かなきゃ」
「ルゥは、何処から来た?」
「南」
 ルゥが簡素に言うと、ティナがあごに手をあてて
「丁度いいわね。南方面には情報はなくて、北には町がごろごろしてるし」
「お互い親睦を深めながら行こうか」
 キールが優しい笑みを浮かべて自分よりも小さなルゥを見る。
「そうね。旅路はまだまだ長いわ。仲良くやりましょ」
 3人は街道に沿って道を急ぐでもなく歩いた。


 これが、3人の出逢いだった。これから先、どんな困難と地獄が待っているかも知らずに旅は始まった・・・。

- continue -

 

10.02/06



inserted by FC2 system