Infinity


act.02 目的

「ルゥは、何処出身なの?」
 ティナがそれとなく聞く。3人は北の大都市セントガルを目指してなるべく険しくない道を歩く。
 今は陽気がぽかぽかと温かく、とても歩きやすい。そして道端の原っぱで少し休む事にして足を休める。
「分からない。あまり覚えてないんだ。親さえも・・・。ただ拾われて育てられたのはセレステナの近く・・・」
 ルゥはあまり考えずに答える。基本的に表情の数が少ないようだ。それとは反対にころころと表情が変わるティナはふーんとつぶやいて自分達のことを話し出した。お互い慣れてきた証であり、これからの信頼性を高めるための話だった。
「私は、聖都市セイルーンで孤児として育てられたの」
「セイルーン・・・。英雄の街か」
 ルゥが今まで集めてきた情報の中の一部を掘り返す。ティナは小さく頷いた。
「私の父は破壊神と戦った英雄。母親は私を産んですぐに死んじゃったし、父は聖魔大戦の為に私の面倒なんて見るわけないし。孤児として育てられる他なかったのよ」
 ティナは足元を見ながらも遠い目をしていた。
 聖魔大戦とは今から15年前に破壊神と人間が戦った戦争のことだ。破壊神は魔を統べ魔力を用い、人間は聖力を使って戦った。その時に破壊神を倒したのがティナの父、後に英雄と呼ばれるジェイク・エスパード。
 魔力は魔族が使う力。聖力はそれ以外の生物が使う力。体の中で力を増幅するために使うならどちらでもその力の強さ次第なのであまり変わりはないが、その力を外で具現化して使うなら違いが出てくる。魔力はもちろん攻撃する力、破壊の力。聖力は守る力、回復する力なのだ。
「そうだったのか。それならどうして英雄の子が旅をしているんだ?」
 ルゥは少し子供っぽい顔で首をかしげる。
「父がしゃべったこともない娘に残したひとつの言葉があるの。『インフィニティを壊して欲しい』だけ。愛する娘にこれだけの言葉しか残さなかったの。酷いでしょ?それでも私は父を誇りに思ってる。そんな父の言葉を無視なんて出来ない。だからインフィニティを探しながらセイルーンの孤児院のためのお金を集めてるってわけ」
 ティナは全てを話しきった様子でルゥの反応を待っている。
「キールは?どうしてキールとティナは一緒に旅をしている?」
「おれ?おれはあるものを探してるんだ」
「あるもの?」
 ルゥが首をかしげて反問するとキールは頷いた。
「“死の秘宝”って知ってる?」
 ルゥが首を横に振るのを見て小さく笑ってから
「人を生き返らせる事が出来るらしい」
 その言葉にルゥが目を見開いて食いついてきた。
「何だそれは!誰でも生き返らせる事が出来るのか!?」
「そうらしい。体があって、魂があるかないかの常態なら。君も生き返らせたい人がいるのかい?」
 キールは表情を崩さず問いかける。すると、ルゥは残念そうにしょぼんと表情を曇らせた。
「俺を拾ってくれた人だ。でももう埋めてしまった」
「そうか、残念だね」
「キールは誰を生き返らせたいんだ?」
「恋人・・・をね」
 初めてキールの表情が曇った。今まで出会ってからニコニコした笑顔以外見た事なかったのに。その時だけ悲しい過去に戻ってその情景を見ているかのような顔だった。
「それで旅してる途中にセイルーンでティナに出会って、仲良くなっちゃって。一緒に旅してるんだ」
 また笑顔になって言い切った。ティナはそれを寂しそうに笑いながら見ていた。
「そうか。俺は大切な人を殺した死の右腕を倒すために旅している」
「さっき言ってた人?」
 ティナの遠慮がちの声に頷く。
「その人が殺された時、俺はインフィニティを使った」
 ルゥはティナの目を見て言った。ティナが声にはしなかったが話を聞かせてくれと言わんばかりの顔をしていた。
「それで不老不死になった」
「何ですって!?」
 ティナとキールがその言葉には過剰に反応した。
「この目の力と引き換えに。聖力の半分を持っていかれた」
 ルゥは黒い右目に触れる。
 魔力、聖力は目に宿る。目を失えば自然と力を失う。相当な力の持ち主は視力を失っても力を保っていられるが、大抵は失ってしまう。
「そう・・・それを貴方が望んだの?」
 ティナが何とも言えない切ない表情で言う。知っているのだ、不老不死の怖さを。死にたくても死に切れず、生きていかなければならない辛さを。
「力が欲しかった。それを望んだ。そうしたらこうなってた」
 ルゥは小さく首を振る。
「でもいい。これできっと奴を倒せるまでは死なない」
 ルゥの決意のこもった言葉に2人はしばらく口を開けなかった。風がそよそよと髪をさらっていく。
 すると、ルゥがピクッと反応する。他の2人も気づいた。
「3匹・・・」
 ルゥは周りを見渡すことなくつぶやく。気配だけで悟ったのだ。ルゥがそう言った直後に近くの木々の陰から魔物が飛び出してきた。いのししのような姿かたちをしていた。
 ルゥは速かった。マントを払って、腰の方から2本の剣を抜く。腰に2本の剣が横になって上下装着されていて、普通の剣よりはやや小さい。それを両手に握って敵を切りつける。
「援護よろしく」
 キールも武器を取り出す。腰の方に手をやって、まるで刀を抜くように構えて襲い掛かってきた敵に何も握っていない手で振りぬく。すると、何かが一閃した。
 敵の同体がずれて落ちる。キールの手にはいつの間にか細い刀身だが、普通の剣の3倍の長さはある刀が握られていた。聖力で隠していたらしい。
「援護なんて必要ある?」
 そう言いつつ、まだ元気な魔物が強い敵であるキールを避けてティナに襲い掛かる。だが、ティナは片手を突き出しただけだった。
 すると何か強い衝撃波が敵を襲う。そのまま期に激突して息絶えた。
 ルゥは敵の頭を丁度同体から切り離した所だった。
「ルゥ、強いね」
 キールが刀を消したあとでルゥに笑いかける。
「あんた達だって。ティナは詠唱なしで魔法が使えるのか?」
 ルゥが腰に短剣を戻す。
「ええ。一応ね」
 ティナはにこっと笑った。普通、魔法を使う場合は詠唱を必要とする。魔力を使おうが聖力を使おうが具現化されたものは総称として魔法、と呼ばれる。
「それじゃあ、休憩もしたし、体操もすんだし、行こうか」
 キールが言うと、ゆっくりと足を進めた。
「良かったね、ルゥは気づいてないみたい」
「本当に。でもいつかばれちゃうし。今度ゆっくりした時にでも話すわ」
 ティナにこっそりキールが話しかけてくる。ティナはそれに淡々と答えて先を行くルゥを追った。

 分かる者には分かる。ティナが使った力が魔力だったことに・・・。

- continue -

 

10.02/10



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